1. ゲームの背景
1.1 世界観設定
1991年2月、カプコンはCPS1基板で『ストリートファイターII -The World Warrior-』をリリースし、格闘ゲームの歴史を塗り替えました。それまでの格闘ゲームといえば、レバーと2〜3個のボタンで遊ぶ簡素なものが主流でした。初代『ストリートファイター』(1987年)は感圧式ボタンという実験的な試みを行いましたが、販売台数は伸び悩みました。しかし、続編がこれほどまでの社会現象を巻き起こすとは、誰も予想していませんでした。
『ストII』は「格闘ゲーム」というジャンルの定義を完全に書き換えました。8人のキャラクターがそれぞれ全く異なる通常技、必殺技、戦術スタイルを持つという仕様は、当時としては贅沢極まりないものでした。世界中のゲームセンターで熱狂が巻き起こる中、プレイヤーの間で一つの疑問が繰り返されました。「なぜ、あの4人のボスキャラクターは使えないのか?」。バルログ(ボクサー)、ベガ(バルセロナの貴公子)、サガット(帝王)、ベガ(総帥)——いわゆる「四天王」は、オリジナル版ではCPU専用キャラクターでした。
カプコンの対応は驚くほど迅速でした。わずか13ヶ月後の1992年3月、北米のアーケード展示会「ACME 1992」にて『ストリートファイターII' チャンピオンエディション』(以下、CE)が発表されました。四天王が初めてプレイヤーキャラクターとして使用可能になり、さらに「同キャラ対戦」も解禁。使用可能キャラクターは8人から12人へと一気に拡大しました。
伝説的なプロデューサーである岡本吉起氏が総指揮を執り、西谷亮氏と安田朗氏(あきまん)がデザインを担当。技術的にはCPS1基板(Motorola 68000 @ 10MHz、Z80オーディオコプロセッサ、384×224解像度、4096色同時発色)で動作しています。CEの商業的成功は凄まじく、日本国内で約14万台(基板単価16万円、ハードウェア売上224億円)、北米で2万台以上、世界合計で約16万台を販売。シリーズを通じた総インカムは23億ドルを超えました。
1.2 「ダッシュ」命名の謎
日本版のタイトルは『ストリートファイターII ダッシュ』であり、ロゴには「ダッシュ」を意味するプライム記号(')が添えられています。日本語において「ダッシュ」は「アップグレード版」「強化版」の代名詞であり、タイトルにこの記号を付けることで「オリジナル版の直接的な強化版である」ことを示唆していました。一方、欧米では「Dash」という言葉が英語圏のユーザーには曖昧だったため、より直感的な「Champion Edition」という名称が採用されました。日本の宣伝ポスターでは、四天王が燃え上がるストIIロゴを囲むデザインが採用され、「ボスが使える」という核心的な魅力を伝えていました。
2. キャラクター紹介
CEでは、オリジナル版の8人に四天王を加えた計12人が使用可能となり、キャラクターの深みが倍増しました。各キャラクターは独自の必殺技や判定、戦術スタイルを持っており、1992年当時のハードウェアリソースを最大限に活用していました。
2.1 リュウ(Ryu)——波昇流の開祖
| 属性 | 評価 |
|---|---|
| 攻撃力 | ★★★★ |
| スピード | ★★★ |
| 防御/体力 | ★★★ |
| 操作難易度 | ★★ |
- 強み:波動拳による牽制と、昇竜拳による対空性能が強力。竜巻旋風脚で飛び道具を抜けることも可能。遠近両方に対応できる万能型。
- 弱み:能力が平均的なため、極端な強みがない。CEでは波動拳と昇竜拳の硬直をキャンセルできない。
- 総評:初心者から上級者まで愛されるスタンダードな強キャラ。おすすめ度:★★★★★
2.2 ケン(Ken)——烈火疾風の格闘貴公子
リュウの兄弟弟子。技構成はリュウと同じですが、性能には微妙な違いがあります。昇竜拳は多段ヒットしやすくダメージが高いのが特徴。
- 強み:昇竜拳のダメージがリュウより高く、投げ技の射程も長い。
- 弱み:波動拳の弾速がリュウよりわずかに遅い。
- 総評:攻撃的なプレイヤーに最適。昇竜拳のコンボの爽快感は格別。おすすめ度:★★★★★
2.3 春麗(Chun-Li)——世界最強の女性格闘家
ICPOの捜査官。SF2で唯一、空中投げを持つキャラクター。
| 属性 | 評価 |
|---|---|
| 攻撃力 | ★★★ |
| スピード | ★★★★★ |
| 防御/体力 | ★★ |
| 操作難易度 | ★★★ |
百裂脚による圧倒的なプレッシャーと、独特な軌道の気功拳が強力。空中投げで跳び込みを封じることができる。スピードは速いが体力が低く、ハイリスク・ハイリターンなキャラ。おすすめ度:★★★★
2.4 ガイル(Guile)——音速の軍人
アメリカ空軍少佐。溜め系キャラクターの元祖にして完成形。
- 強み:ソニックブームとサマーソルトキックによる「待ち」の戦術が非常に強力。
- 弱み:溜め入力が必要なため、自分から攻めるのが苦手。懐に入られると脱出が困難。
- 総評:守りの要。溜めのリズムをマスターすれば、倒すのは至難の業。おすすめ度:★★★★
2.5 本田(E.Honda)——スーパー力士
相撲の強さを世界に証明するために参戦。百裂張り手による近距離のプレッシャーと、スーパー頭突きによる奇襲が強力。移動速度が遅いため、遠距離戦は苦手。おすすめ度:★★★
2.6 ブランカ(Blanka)——アマゾンの野獣
アマゾンで育った野生児。「人間離れした格闘家」というコンセプトでデザインされた。エレクトリックサンダーの判定が広く、ローリングアタックは予測困難。初心者キラーとして猛威を振るう。おすすめ度:★★★
2.7 ザンギエフ(Zangief)——赤きサイクロン
ソ連出身のプロレスラー。格闘ゲーム史上最も有名な投げキャラ。
| 属性 | 評価 |
|---|---|
| 攻撃力 | ★★★★★ |
| スピード | ★ |
| 防御/体力 | ★★★★★ |
| 操作難易度 | ★★★★★ |
スクリューパイルドライバーはゲーム中最強の単発ダメージを誇る。飛び道具を持たないため、360度レバー入力を駆使して懐に潜り込む必要がある。おすすめ度:★★★
2.8 ダルシム(Dhalsim)——ヨガの神秘
インドのヨガマスター。手足が伸びる特殊な攻撃スタイルを持つ。ヨガファイアとヨガフレイムによる遠距離牽制は最強クラスだが、体力が最低で近距離戦は非常に脆い。最も独創的なキャラクター。おすすめ度:★★
2.9 バイソン(Balrog)——鉄拳の暴君
四天王の一人。純粋なボクサー。ダッシュストレートは強力だが、キック技がなく空中戦に弱い。おすすめ度:★★★
2.10 バルログ(Vega)——仮面の貴公子
スペインの忍者。爪と仮面を装備した空中殺法が特徴。壁登り攻撃やフライングバルセロナアタックは華麗かつ致命的。防御力は低め。おすすめ度:★★★
2.11 サガット(Sagat)——帝王の復讐
初代SFのボス。タイガーショットによる高低の牽制と、タイガーアッパーカットの対空性能が非常に高い。体が大きく被弾しやすいが、遠距離での制圧力はトップクラス。おすすめ度:★★★★
2.12 ベガ(M.Bison)——サイコパワーの支配者
シャドルーの総帥。サイコクラッシャーの判定とダメージは圧倒的。ヘッドプレスで飛び道具を回避可能。技の硬直は大きいが、プレッシャーは最強。おすすめ度:★★★★
3. 操作方法
3.1 基本操作
『ストII』の6ボタンレイアウトは、ゲーム史上最も影響力のあるデザインの一つです。上段にパンチ3種、下段にキック3種が配置されています。
| ボタン | 説明 |
|---|---|
| 弱パンチ(Jab) | 発生が最も速く、牽制やコンボの起点に |
| 中パンチ(Strong) | 速度と威力のバランスが良い |
| 強パンチ(Fierce) | 最も遅いが威力が高い |
| 弱キック(Short) | 発生が速い |
| 中キック(Forward) | 中距離の牽制に最適 |
| 強キック(Roundhouse) | 高威力だが硬直も長い |
レバーの8方向で移動とジャンプを制御します。この6ボタン配置は『ストリートファイター6』にも受け継がれています。
3.2 コンボシステムの起源
格闘ゲームの核心である「コンボ」は、意図的な設計ではなく、開発中の「バグ」から生まれました。攻撃の硬直中に次の攻撃を当てると繋がるという発見が、ゲームの深みを劇的に変えました。
3.3 気絶と投げシステム
- 気絶(スタン)システム:連続で攻撃を受けると気絶値が溜まり、一定時間行動不能になります。ここが勝負の分かれ目となります。
- 投げシステム:前+中・強パンチ/キックで発動。ガードを崩す唯一の手段であり、CEでは戦術の要となっています。
4. 攻略ガイド
4.1 12人の対戦戦略
各キャラクターには相性があります。例えば、リュウに対しては昇竜拳を誘ってから反撃する、ガイルに対しては安全な飛び込みから投げを狙うなど、相手のAIパターンを読み切ることが重要です。
4.2 AIの挙動と難易度
CEのAIは、プレイヤーの距離や入力状況を読み取る「入力読み」の先駆けです。後半の四天王戦では反応速度が飛躍的に向上し、体力が減ると攻撃が激化する「暴走モード」に突入します。
5. 攻略のヒント
- 守りから入る:闇雲に攻めるのは禁物。相手の攻撃をガードしてから反撃するのが基本です。
- 間合いの管理:キャラごとの「黄金の間合い」を維持しましょう。
- 投げを使いこなす:ガードを固める相手には投げが有効です。
- 起き上がり無敵:ダウンからの起き上がりには無敵時間があります。必殺技を仕込んで切り返しましょう。
6. 伝説とトリビア
6.1 名前入れ替えの謎
ボクサー、バルログ、ベガの名称が日米で入れ替わっているのは有名な話です。これは、ボクサーの名前がマイク・タイソンを連想させ、肖像権の訴訟リスクを避けるためにカプコンUSAが変更したためです。
6.2 レインボーエディション
台湾で出回った改造ROM。空中必殺技や硬直キャンセルが可能で、これが後の『ストIIターボ』の開発を加速させました。「海賊版が公式を動かした」稀有な例です。
6.3 昇龍拳のデマ
海外誌『EGM』のエイプリルフール記事で「豪鬼(Sheng Long)の出し方」が捏造され、世界中のプレイヤーが騙されました。これが後の豪鬼誕生のきっかけとなりました。






